パラダイム | マルチパラダイムプログラミング、オブジェクト指向プログラミング、手続き型プログラミング、関数型プログラミング、メタプログラミング、リフレクション、ジェネリックプログラミング |
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登場時期 |
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開発者 | ANSI X3J13委員会 |
型付け | 強い動的型付け |
主な処理系 | Allegro Common Lisp、ABCL、CLISP、Clozure Common Lisp、CMU Common Lisp、Corman Lisp、Embeddable Common Lisp、GNU Common Lisp、LispWorks、Movitz、Scieneer Common Lisp、Steel Bank Common Lisp、Symbolics Common Lisp |
方言 | CLtL1、CLtL2、ANSI Common Lisp |
影響を受けた言語 | LISP、Lisp Machine Lisp、Maclisp、Scheme、Interlisp |
影響を与えた言語 | Clojure、Dylan、Eulisp、ISLISP、SKILL、newLISP、PicoLisp、Stella、SubL |
プラットフォーム | クロスプラットフォーム |
ウェブサイト |
common-lisp |
関連言語 | LISP |
Common Lisp(コモン・リスプ)は、コンピュータ・プログラミング言語 Lispの標準(の、ひとつ)であり、Lisp方言のひとつでもある。Common Lispの略称はCL[注釈 1]。規格はANSIによる ANSI INCITS 226-1994 (S2018)。仕様を指すこともあれば、実装を指すこともある。いくつかの、フリーソフトウェアの定義に合致したライセンスによりライセンスされている実装や、オープンソースの定義に合致したライセンスによりライセンスされている実装や、プロプライエタリなライセンスによりライセンスされている実装がある。
Lispの基本的な特徴の他、いくつかのプログラミングパラダイムのLispへの取り込みについて標準を提供しているという、マルチパラダイムプログラミング言語という面がある。
一般的なLispと同様のS式による構文である。
評価順は、非常に単純な「左から右」、「内側から外側」モデルである(「左から右」を標準で決めているという点は特徴と言えるかもしれない(プログラミング言語の他の標準では決められていないものも多い))。
(F A1 A2)
のようなS式で、F
が関数ならば、その引数 A1、A2 を左から右へ順番に評価し、最後にFにその引数を渡す。F
がマクロならば、まずマクロを展開する。
;; 2 と 2 を足す
(+ 2 2)
→ 4
;; 与えられた数を二乗する関数を定義
(defun square (x)
(* x x))
;; 関数を実行
(square 3)
→ 9
以前のLispでは動的スコープのものも多かったが、Common Lispでは(Schemeと同様な)静的スコープが標準化された。
Common Lispの型システムは階層的である。型はdeftypeを用いて定義され、typeはsupertype,subtypeという概念を持つ。すべての type は supertype として t (他の言語におけるtrueやObject)をもつ。従って、全てのオブジェクトは型tのインスタンスである。一方、型nilは、どのオブジェクトもそのインスタンスにならない型である。[注釈 2]
型にはbuilt-inな型とそうでないものがある。built-inな型は、整数、浮動小数、複素数、文字等といった(他の言語で言う)プリミティブな型に、配列やストリームなど組み込みの型を合わせたものである。built-inでない型には、構造体、クラスなどがある。このように、型システムはクラスおよびオブジェクトシステムと連続的に融合されている。
型は type specifierという記述方式で参照され、これはよくtypespecと省略される。typespecを用いて議論する上で、built-inとは直交する概念として、Atomic Type 対 Compound Typeという概念がある。Compound type は、大雑把には、引数を取ることのことができる型である。例えば、(array fixnum (5 * 7))
は、データ内容がすべて整数型で、サイズが次元ごとに「5,可変長,7」である配列を示している。[注釈 3]
Compound Typeでは、本来の型に合わせて、特定の一変数関数を型判定に用いることもできる。例えば、型 mod3 を以下のように定義できる。
(defun mod3 (n)
(= (/ n 3) 0))
(deftype mod3 ()
`(and fixnum (satisfies mod3)))
しかし、Common LispにはHaskellにおけるような型変数の概念はない。上のarrayの例における引数は、変数ではなく定数として処理されるためである。
Common Lispにおけるアトムとは、誤解を恐れず簡単に言うとlispにおいて「括弧によって囲まれないアトム」すべてを指す。数値はアトムである。シンボル、文字列、文字もアトムである。ANSI CLでは、Compound type (not cons)
として定義されている[1]。
様々な型がある。
Common Lisp は数値表現に 多倍長整数 を用いて任意のサイズと精度を実現している。有理数型が分数として正確に表現されるという点は、他の言語にあまり見られない特徴である。Common Lisp は自動的にそれぞれの数値型を適切に変換する。
Common Lisp の文字型(char)は、ASCII文字の範囲に限定されない。これは LISP が ASCII 以前からあった事を考えれば驚くようなことではない。いくつかの最近の処理系は Unicode 文字をサポートしている[2]。文字列は、下で述べるシーケンスのsubtypeである。
シンボル型は LISP 言語にとっては普通だが、その他の言語ではあまり知られていない型である。シンボルとはユニークで、いくつかのスロットを備えた名付きのデータオブジェクトである。シンボルの備えるスロットのなかでは値セル[注釈 4]と関数セル[注釈 5]が最も重要なものである。シンボルは、変数の値を保持するための、他の言語でいう識別子として使われる事が多いが、それ以外の用法が多数存在する。通常、シンボルを評価するとその値が返る。いくつかのシンボルは評価するとそのシンボル自身が返る。例えば、キーワードパッケージ中のシンボルはすべて自己評価シンボルである。Common Lisp における真偽値は、自己評価シンボル t
と nil
によって表現される。Common Lisp はパッケージと呼ばれるシンボルのための名前空間を備えている。
Common Lisp におけるシーケンス型は、リスト、ベクタ、ビットベクタ、文字列からなる。mapやreduceなどの多くの操作は、任意のシーケンス型に対して動作する。
他の LISP系の言語と同様、Common Lisp のリストはコンス[注釈 6](コンスセル[注釈 7]、ペア[注釈 8]とも呼ばれる)で構成される。コンスセルはcarとcdrの二つのスロットを備えたデータ構造である。リストはコンスセルを繋ぎ合わせたものである。それぞれのコンスセルの car
スロットはリストの要素(他のリストである可能性もある)を参照し、cdr
スロットは次のコンスセルを参照する。ただし、最後のコンスセルの cdr
だけは nil を参照する。コンスセルによって、簡単に木構造やその他の複雑なデータ構造を実現できるが、大抵他のデータ構造を使うか、クラスのインスタンスを使うほうが推奨される。
Common Lisp は多次元の 配列をサポートしており、また必要に応じて配列を動的にリサイズする事も可能である。多次元配列は行列演算に利用される。ベクタは一次元の配列である。配列は任意の型を要素として持つことができる(一つの配列に複数の型の要素を混在させることもできる)が、それに加えて、整数のベクタのように要素を特定の型に特定化することも可能である。多くの実装では、型指定された配列を使う場合には、配列操作の最適化が可能である。型指定された配列のなかで二種類が標準で定義されている。文字列は文字を要素としたベクタであり、ビットのベクタはビットベクタである。
ビットベクタとベクタはシーケンスのsubtypeでもある。
ハッシュテーブルはデータオブジェクト間の関連を保持する。任意のオブジェクトがキーもしくは値として使用可能である。ハッシュテーブルは配列のように必要に応じて動的にリサイズされる。パッケージはシンボルの集合であり、主にプログラムの一部を 名前空間 で分割するために使用される。パッケージはいくつかのシンボルをエクスポート[注釈 9]することで、インターフェースを公開する。構造体 は C言語の構造体や Pascal のレコードに似た、複数の型と値のフィールド(スロットと呼ばれる)で構成される複合的なデータ構造である。クラスのインスタンス[注釈 10]は構造体に似ているが、これはオブジェクトシステムによって作られるものである。
Common Lisp では、関数 もデータ型の一つである。たとえば、これは他の関数を引数として取る関数を書く事を可能としたり、関数を返すような関数を書く事を可能とする。これにより、非常に汎用化された操作を記述できるようになる。このため、Common Lisp のライブラリは、多くの部分が高階関数の上に成りたっている。たとえば、sort
関数は、引数として 比較オペレータ を取る。これは、比較関数が任意の型のデータを整列できるだけでなく、キーによって任意のデータ構造を整列することも可能にする。
;;「 > 関数」を比較オペレータとして用い、リストを整列する
(sort (list 5 2 6 3 1 4) #'>)
→ (6 5 4 3 2 1)
;; リスト内のサブリスト中の最初の要素 (car) に沿ってリストを整列する
(sort (list '(9 a) '(3 b) '(4 c))
(lambda (x y) (< (car x) (car y))))
→ ((3 b) (4 c) (9 a))
defun
マクロは関数を定義する。関数定義は名前と、引数の名前、そして関数本体で構成される。
(defun square (x)
(* x x))
関数定義は、コンパイラに最適化設定や引数のデータ型を指定に関するヒントを与えるための 宣言[注釈 11]や、LISP システムに対話的なドキュメンテーションを与えるためのドキュメンテーション文字列[注釈 12]を含むことがある。
(defun square (x)
"Calculates the square of the number x."
(declare (number x) (optimize (speed 3) (debug 0) (safety 1)))
(* x x))
無名関数は lambda
式を用いて定義される。LISP 的なプログラミングスタイルでは、高階関数の引数として無名関数を使う場合が多い。
関数の定義や操作に関する多くのオペレータが存在する。たとえば、関数は compile
によって再コンパイルされる場合がある。(いくつかの LISP システムでは、明示的なコンパイル命令があるまで、デフォルトでは関数をインタプリタで実行するものや、オンザフライで関数を実行するたびにコンパイルするものなどがある)
defgeneric
マクロは、総称関数(ジェネリック関数)を定義する。defmethod
マクロはメソッドを定義する。総称関数はメソッドの集合である。メソッドはそのパラメータとして渡されたクラスやオブジェクトによって特定化される。総称関数が呼び出されると、マルチメソッドディスパッチ(多重メソッドディスパッチ)により、実際に使用されるメソッドが決定される。
(defgeneric add (a b))
(defmethod add ((a number) (b number))
(+ a b))
(defmethod add ((a string) (b string))
(concatenate 'string a b))
(add "Zippy" "Pinhead")
→ "ZippyPinhead"
(add 2 3)
→ 5
総称関数もファーストクラスのデータ型である。 総称関数やメソッドには上に記載したよりも、もっと豊富な機能が存在する。
関数名のための名前空間は、データ変数のための名前空間とは分離されている。これは Common Lisp と Scheme における主要な違いである。defun
、flet
そして labels
のようなオペレータは関数名前空間へ名前を定義する。
他の関数への引数として関数名を渡す場合には、function
スペシャルオペレータ(通常 #'
と略記される)を使う必要がある。最初の sort
引数では、関数名前空間にシンボル >
で定義された関数名を #'>
というコードで参照している。
Scheme の評価モデルはより単純で、単一の名前空間のみが存在し、引数部分だけでなくあらゆる位置で、評価順序を問わずフォームは評価される。この事が Common Lisp と Scheme のどちらかの方言で書かれたコードは、ときどき他方の経験を持つプログラマーを混乱させることになる。たとえば、Common Lisp プログラマーの多くは list
あるいは string
といった説明的な変数名を使用する事を好むが、これらの名称は Scheme ではローカルに関数名を上書きしてしまうという問題を起こすことになる。ただし、これには一長一短がある。名前空間が分かれているために、高階関数などに渡す関数の名前は、そのままではなく、関数の名前であることを明示する必要が発生してしまっている。
関数に独立した名前空間を持つ事が利点かどうかは、LISP コミュニティにおける論争の源となっている。この論争は一般に「Lisp-1 vs. Lisp-2 の議論」と言われる。この用語は リチャード・ガブリエル と ケント・ピットマン らによる二つの手法を広範囲にわたって比較した 1988 年の論文で作られた[3]。
Common Lisp が備えている他の型は以下の通り:
他のプログラミング言語におけるプログラムと同様に、Common Lisp のプログラムも変数や関数、その他の要素を参照するために名前を用いる。名前が参照するものは、スコープによって決定されている。
名前と、それが参照する実体との関係を束縛(バインディング[注釈 16])と呼ばれている。
LISP系言語におけるマクロは、表面上は関数と同じように使われる。しかし、それは評価される式を表すというよりプログラムのソースコードの変形を表現している。
マクロはプログラマーに言語内に新しい構文フォームを作る事を可能とする。たとえば、このマクロは Perl のような言語で馴染みのある until
ループのためのフォームを実現する。
(defmacro until (test &body body)
`(do ()
(,test)
,@body))
;; 利用例
(until (= (random 10) 0)
(write-line "Hello"))
;; 定義したuntilのマクロ展開
(macroexpand-1 '(until (= (random 10) 0)
(write-line "Hello")))
→ (DO ()
((= (RANDOM 10) 0))
(WRITE-LINE "Hello"))
T
すべてのマクロは、内に含むソースコードが評価、あるいはコンパイルされるよりも前に必ず展開される。マクロは抽象構文木(S 式)を受けとり、それを変更して返す関数だと考えることができる。これらの関数は、最終的なソースコードを生成するために評価器やコンパイラよりも前に呼び出される。マクロは通常の Common Lisp で記述され、任意の Common Lisp オペレータ(あるいは自作のオペレータ)を使うことができる。 上の例で使用されているバッククォート記法は一般的なコードテンプレートへの代入を単純化するために Common Lisp によって提供されているものである。
Common Lisp は オブジェクト指向プログラミング のための道具として、Common Lisp Object System(CLOS)を備えている。これは、現在利用可能な言語の中で、もっとも強力なオブジェクトシステムの一つである。1984年当初のCommon Lispには含まれていなかったが、後にCommon Lisp の ANSI 標準規格の一部となった。C++ や Java のような静的な言語のオブジェクト指向機能とは根本的に異なった動的オブジェクトシステムである。
Common Lisp と最も頻繁に比較対照されるのが Scheme である — これら二つは最も有名な LISP系言語だからだ。Scheme は Common Lisp よりも古く、同じ LISP の伝統から生みだされただけでなく、同じエンジニアのガイ・スティール・ジュニア[注釈 17]が Common Lisp 委員会の議長を務めた。
以前の多くのLispの方言や実装とは異なり、Common Lisp は Scheme と同様な、スコープは静的スコープのみを基本とする仕様である。
Lisp Machine Lisp や MACLISP といった Common Lisp の設計に寄与した実装の多くは、インタプリタでは動的スコープを、コンパイラでは静的スコープ、という挙動になっていた。Schemeはそういったものとは異なり、静的スコープのみであった。Common Lisp は動的スコープをもサポートしているが、明示的な special
宣言が必要である。ANSI Common Lisp のインタプリタとコンパイラの間にはスコープに関しての相異点は全く存在しない。
時々、Common Lisp は「Lisp-2」、Scheme は「Lisp-1」と呼ばれることがある。これは Common Lisp が関数名と変数名(2つ)にそれぞれ独立した名前を備えている事に起因した名前である。しかし、実際には Common Lisp は go
タグやブロック名、loop
キーワードなど多くの名前空間を持っているし、マクロをうまく使えば、構文的に名前空間を追加することも出来る。複数の名前空間に関するトレードオフについて、Common Lisp と Scheme のそれぞれを支持する論争が長いあいだ行われている。Scheme では変数名と関数名の衝突を避ける必要があるため、Scheme の関数はよく lis
や lst
、lyst
といった関数名と衝突しないような引数名を取ることになる。一方 Common Lisp では引数として使う場合に、明示的に関数の名前空間を参照する必要がある。これは上にでてきた sort
のサンプルのように一般的なことである。
Common Lisp はまた、真偽値の扱いが Scheme とは異なっている。Scheme は真と偽の表現として #t
と #f
という特別な値を用いている。Common Lisp は、より古い LISP系言語の伝統に従ってシンボルの t
と nil
[注釈 18]を使っている。Common Lisp においては、if
のような条件式において任意の nil
でない値が真として扱われる。このことは、いくつかのオペレータが述語として働くと同時に、後の計算に使うための有意な値を返すものとして動作する事を可能としている。
Scheme の標準規格は 末尾再帰の最適化 を要求しているが、Common Lisp の規格はしていない。ほとんどの Common Lisp 実装は末尾再帰の最適化を提供するが、それでもプログラマーが最適化宣言を使った場合のみである場合が多い。それにも関わらず、一般的な Common Lisp のコーディングスタイルは Scheme スタイルで好まれるようなあらゆる場合に再帰を使うというやり方とは異なっている。Scheme プログラマが末尾再帰で表現するものを、Common Lisp プログラマーは do
、dolist
、loop
等の反復構文で表現する。
Common Lisp は、唯一の実装により規定されるものではなく、Ada やC言語のように仕様によって規定されている。
実装は、標準規格でカバーされていない機能を提供するライブラリとともに配布される傾向がある。そのような追加機能をポータブルに利用可能とする フリーソフトウェア ライブラリが作成されている。最も顕著なものが、Common-Lisp.net
や Common Lisp Open Code Collection プロジェクトである。
Common Lisp の評価器は式を評価する前にコンパイルする所謂インクリメンタルなコンパイラとして実装が可能なように設計されている[4]。関数のインライン展開のような最適化コンパイルのための標準的な宣言も言語規格内で規定されており、多くの Common Lisp 実装は関数を機械語へとコンパイルする。また、性能では劣るが、バイトコードへとコンパイルする処理系も存在する。また、コンパイル済みのコードとコンパイルされていないコードを混交させても動作に差異がないように言語が設計されているためインタプリタを搭載する処理系でもコンパイラのみ搭載の処理系と動作に違いがない。
CLISP のような、UNIX 上で動くいくつかの実装は、システムが Perl やUNIXシェルインタプリタを透過的に呼び出すのと同様に スクリプトのインタプリタ[5]として使うことができる。
nil
はまた、空リストをも表現する。
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