System/38
System/38 のコンソール

System/38 は、IBMが1979年にリリースしたオフィスコンピュータであり、AS/400の前身である。IBM の技術者フランク・ソルティスがいくつかの革新的機能を考案し、実装されている。

歴史

System/38 は 1978年に発表され、1979年8月に出荷開始された。System/34 の後継であるが、System/36 は後から登場した。コード名は "Eagle"。System/38 は中止された Future Systems プロジェクトから派生したものである。

機能

System/38 のアドレッシングは48ビットで、当時としては珍しい(アドレッシングが48ビットなのであり、いわゆる「48ビットCPU」なのでは無い)。

また、革新的なデータベース的ストレージ手法を備えている。System/38 のオペレーティングシステムCPF(Control Program Facility)である。CPF は System/34 や System/36 のオペレーティングシステム SSP(System Support Program)とは無関係である。

サポートするプログラミング言語としては、RPG IIICOBOLBASICPL/I がある。JCL相当のスクリプト言語として CL(Control Language)がある。CL はシェルスクリプトに似ているが、コンパイルでき、実行ファイル化することができる。

System/38 は当時のハードウェアとしては極めて先進的であった。開発当初、当時としては巨大なOS(ディスク上で60MB)のオーバーヘッドに悪戦苦闘した[1]。プロジェクトメンバーの1人が内部コード名を PACIFIC にしようと提案したこともあった。これは、"performance ain't critical if function is complete"(機能が完全なら性能は問題ではない)の頭字語である。数十年後、かつて考慮に値しないと評されたその同じソフトウェアが、企業や政府などの数千のシステムでうまく機能していた。

単一レベル記憶

System/38 とその後継シリーズは、単一レベル記憶(SLS)を使った、商用では初のシステムである。全ての主記憶装置と、磁気ディスク装置などの補助記憶装置が、単一の仮想アドレス空間にマッピングされる。

System/38 以外の多くのコンピュータでは、ディスク上に格納されるデータはファイルという論理的単位に分割して格納される。データをあるファイルに追加する場合、そのためのセクターが用意され、そのセクターがいっぱいになると新たなセクターが使われる。System/38 では、データは個別に格納され、システムのどこに置かれてもよい。ファイルという概念はなく、OSがストレージ上の全データを管理する。

TIMI

System/38 とその後継シリーズは、TIMI(Technology Independent Machine Interface)によって、アプリケーションソフトウェアやOSの大部分を、ハードウェアに依存しない実装にしている(System/38 では 単に MI、Machine Interface と呼んでいた)。TIMIは水平マイクロコードによって実現され、ソフトウェアは中間コード(バイトコード)により配布され、インストール時に最適化される。後のJavaVMのような一種の仮想機械であるが、ソフトウェアでインタプリトする仮想機械に比べ、性能を犠牲にしていない。

System/38 の後継である AS/400 は、途中でCPUを独自CISCから、アーキテクチャの異なるRISCPOWERに変更したが、TIMIの効果でユーザーにはほとんど意識されることは無かった。

ハードウェアRDBMS

System/38 とその後継シリーズは、商用では初めてRDBMSをハードウェア(マイクロコード)に実装したシステムでもある。外見上はOSの標準機能としてRDBMS機能があるように見えるが、内部的にはハードウェアに標準でRDBMSが付属しており、極めて高速・高信頼性である。

このため System/38 とその後継シリーズは、簡単に使用できる本格的RDBMSシステムとして広く使われた。なおマーケティング上の理由で、この RDBMS は AS/400 の時代に DB2/400 、DB2 for OS/400 などとDB2ファミリーのブランドとなったが、実際にはミドルウェア・ソフトウェアで実現しているのではなく、ベース部分はハードウェアの標準機能として実現されている。

その他の特徴

System/38 は商用では珍しい capability-based addressing を採用している。なお、その手法は AS/400 や System i といった後継シリーズには受け継がれていない[2]

販売状況

IBM は約2万台を5年間で販売した。よく売れた System/34 の後継として登場したが、アップグレードには困難が伴った。周辺機器や言語は似ていたものの、実際には細部がかなり異なっていた。このため、IBM は System/34 と互換性のある System/36 (OSはSSP)を後から発売することになった。

このため、IBM は互換性がなく相互にオーバーラップする3種類のプラットフォーム(System/34と36、System/38、System/360)を持つことになった。当時、DEC はこれを IBM の弱点と考え、1つのアーキテクチャで幅広い製品展開をしようとした(シングルアーキテクチャ)。IBM はこれに対抗して小型メインフレーム 4300シリーズ、更に9370シリーズをリリースしたが、あまり成功しなかった(ただし4300の専用OSであるVSEは、z/VSEとして今も続いている)。

System/38 (OSはCPF)の先進的な機能は AS/400 (OSはOS/400)に受け継がれた。AS/400 はその後 iSeries、さらに System i と改称され、2008年にはPower Systemsに統合された(iエディション。OSは IBM i)。

脚注

  1. ^ "Future Observatory Essay"
  2. ^ Frank G. Soltis Fortress Rochester: The Inside Story of the IBM ISeries p.119

参考文献

外部リンク