IBM 7090は、IBMの科学技術計算用第二世代トランジスタ版メインフレームであり、真空管ベースの IBM 709 の後継マシンである。最初の7090は1959年11月に稼動。1960年、典型的なシステム価格は290万ドルで、レンタルでは月額63,500ドルであった。
ワード長は36ビットで、アドレス空間は32Kワード[1]。最大メモリ容量144Kバイト[2]。基本メモリサイクルは2.18μ秒[3][2]。IBM 7030 (Stretch) プロジェクトから生じた IBM 7302 磁気コアメモリ記憶装置を流用している。
7090は709の6倍の性能で、レンタル料は半分だった[4]。
709は704を強化したマシンだったが、709がリリースされたころには真空管からトランジスタへと時代が移りつつあった。そこでIBMは709開発チームにトランジスタ版の後継機開発を指示した。このプロジェクトは709-T(Tは Transistorized の意)と呼ばれたが、それを「セブン・オー・ナインティ」と発音したことから、機種名が7090となった。
IBM 7090 から以下のような機種が派生している:
基本命令形式は IBM 709 と同じで、「プレフィックス」3ビット、「デクリメント」15ビット、「タグ」3ビット、「アドレス」15ビットから構成される。プレフィックス部は命令の種類を指定する。デクリメント部は命令結果を修飾する即値を格納するか、命令の種類指定に使われる。タグ部はインデックスレジスタを指定し、指定されたインデックスレジスタの内容がアドレスから引かれて実効アドレスとなる。アドレス部はアドレスか即値オペランドを格納している。命令はパイプライン処理されず、とある整数演算命令には14サイクルの実行時間を要した[2]。
文書やプログラムでは八進法が用いられた。制御卓のランプやスイッチも3ビットずつグループ化されている。
7090シリーズはチャネルを入出力に採用しており、現代のDMA方式の先駆けとも言える。最大8本のデータチャネルを接続でき、各チャネルに10台の IBM 729 磁気テープ装置を接続できる。各データチャネルはコマンドと呼ばれる非常に簡単な操作を受け付けた。テープだけでなく、パンチカードやプリンタなども接続可能で(後にはハードディスクも)、当時としては高性能である。ただし、プリンタやパンチカードの入出力には既存のPCSのものを流用しているので性能は低い。その後、安価な IBM 1401 を使用してパンチカードから磁気テープに変換して7090/94に持っていくという方法が一般化した。出力も磁気テープにいったん溜め込み(スプーリング)、1401で印刷したりパンチカードに変換したりした。というのも、IBM 1401用のプリンタ (1403) の方がPCS用プリンタより高速だったのである。後にIBMは7094/7044 Direct Coupled Systemを導入し、データチャネル間の通信ができるようにして、7094が計算を行い7044が入出力を担当するという構成を可能にした(7040/7044は IBM 1401 用周辺機器が接続可能)。
7090 と 7094 は当時としては成功した機種であり、IBMは様々なソフトウェアを提供した。また、非常に活発なユーザー組織 SHARE もあった。
IBSYS は重装備のオペレーティングシステムであり、各種サブシステムと言語サポートを備えていた。例えば、FORTRAN、COBOL、SORT/MERGE、MAPアセンブラなど。なお、7090/7094用のIBSYSと7040/7044用IBSYSには一部に非互換があった。IBSYSは磁気テープ上のジョブ(プログラムとデータ)間に書かれた制御カードイメージを処理するモニターである。IBSYS制御カードは1桁目に "$" があり、続いて「制御名」でIBSYSの設定すべきユーティリティを指定し、後続のジョブをそのユーティリティで処理する。パンチカードのカードデッキのイメージを磁気テープ上に持ち込んだものであり、これはオフラインでパンチカードから磁気テープにコピーされた。
FMS (FORTRAN Monitor System) は、FORTRANとアセンブリ言語のバッチ処理に特化した IBSYS よりも軽いシステムである。そのアセンブラ FAP (FORTRAN Assembly Program) は MAPには劣るが当時としては十分な機能を備えていた。FMSのFORTRANコンパイラは IBM 704 向けにバッカスらが開発したコンパイラの強化版である。